---- 北の系2005 ----
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有事法制と基本的人権について
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2003.5.19


菅・小泉会談。戦時には国民の犠牲が
認められるべきという点で合意を得た。

ここでは、与党三党と民主党が合意し衆議院を通過した有事関連法案(与党民主合意修正案)が、政府原案や民主党案と比較してどのような違いがあり、国民の戦時の生活にどのような影響をもたらし得るのかを検討します。

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まず、与党(自由民主党、公明党、保守新党)同意のもとで提出された武力攻撃事態法「政府原案」の中から、基本的人権に関する第三条と第三条4項を引用します。

http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g15405088.htm

武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律案(政府原案)

第三条 武力攻撃事態への対処においては、国、地方公共団体及び指定公共機関が、国民の協力を得つつ、相互に連携協力し、万全の措置が講じられなければならない。

4 武力攻撃事態への対処においては、日本国憲法の保障する国民の自由と権利が尊重されなければならず、これに制限が加えられる場合は、その制限は武力攻撃事態に対処するため必要最小限のものであり、かつ、公正かつ適正な手続の下に行われなければならない。


これを見てわかる通り、「政府原案」の第三条第4項に、「憲法の保障する国民の自由と権利が尊重されなければならず」と書いてあります。

つまり、民主党が対案を出す以前から、政府・与党は有事法制のなかに「基本的人権の尊重」を法律案の中に盛り込んでいた、ということになります。

ということは、一部マスコミが報じているように、「民主党が基本的人権の文字を入れた。民主党は良くがんばった」というような報道は、根拠が無いということになります。

しかし、だからといって、「小泉総理は素晴らしい! 山崎幹事長良く頑張った! 有事法制万歳!」と誉めるには性急すぎます。

「基本的人権の尊重」という文字があるだけで、戦時の国民生活が平時同様に保障されるわけではまったくありません。

なぜか。

それは、民主党が与党と合意する前に作った「民主党修正案」をよく見てみればよくわかります。

http://www.dpj.or.jp/seisaku/gaiko/pdf/buryokutaisyo_syuseian.pdf

武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律案(民主党修正案)

第三条…

…第四項を次のように改める。

4 武力攻撃事態等においても、日本国憲法の定めるところにより、基本的人権は保障されなければならずこれを制約することが余儀なくされるに至った場合にあっても、当該制約は、その対処しようとする事態に応じた必要最小限のものにして、次に掲げる事項が確保されたものでなければならない。この場合においては、当該制約は、公正かつ適正な手続の下に行われなければならない。

一 基本的人権の保障について差別的取扱いをしてはならないこと。

二 思想及び良心の自由は絶対的に保障されなければならず、国の安全の確保又は公共の秩序の維持を理由として、思想を統制してはならないこと。

三 報道の自由、政府を批判する自由等の表現の自由を侵してはならないこと。

四 国民が求められる協力は、国民の理解の下に、その自発的意思に委ねられるものでなければならず、強制にわたることがあってはならないこと。

五 権利の制限に伴って生じる特別な犠牲については、正当な補償が行われなければならないこと。

六 武力攻撃事態等に対処するために実施された措置に係る損失補償、不服申立て、行政事件訴訟等の手続においては、国民の権利の迅速かつ確実な救済のため、特別の考慮が払われなければならないこと。


マスメディアのニュースでは、武力攻撃事態法案の政府原案と民主党修正案との一番大きな違いを、「基本的人権を尊重する6項目の存在の有無だ」というようなことを書いているところがありますが、そうではありません。

太文字で強調しましたが、「政府原案」と「民主党修正案」の最も大きな差異は、「政府原案」では基本的人権を「尊重」し、「民主党修正案」では「保障」しているという、その点にあります。

たった二文字の違いしかないじゃないか、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。

裁判になった時に、「尊重」「保障」とでは、有事法制の適用解釈が大きく変ってきます。

武力事態法の条文が、基本的人権の「尊重」になっている場合は政府に人権剥奪の自由裁量権が原則的に認められ、基本的人権の「保障」となっている場合には、政府に人権剥奪の自由裁量権が原則的に認められないという大きな違いが発生し得ます。

戦場の状況について、軍隊の中にいない一般市民が、軍隊や政府を相手に人権侵害で裁判を起す場合、政府に人権剥奪の自由裁量権が有事法制で原則的に認められている場合は、圧倒的に不利です。

つまり、基本的人権の「尊重」と書いた場合は、あくまでも「尊重」にすぎず「保障されないケース」を事実上、政府の自由裁量権で判断できるわけで、結局、国民の人権は「保障」にはなりません。

たとえば、戦争が始まってあなたの家族が運悪く敵陣の近くにいて、米軍が敵陣にミサイルで爆撃した結果、あなたの家族が巻き添えになって苦しみぬいて死んだと仮定します。あなたは、当然、米軍と政府に、「基本的人権の尊重」と書いてある武力攻撃事態法に基づいて、「家族の人権を奪った責任をとれ」と米軍と政府の責任を追及し、裁判に訴えることになるでしょう。その時、裁判官がどう判断するか。

条件にもよりますが、米軍は管轄権が無いので裁けません。

問題は政府の責任を問えるかという点ですが、前述したように、基本的人権の「尊重」ではあっても「保障」ではないので、政府は基本的人権を「尊重」していた結果だと証明できれば、政府の自由裁量権が認められ、あなたの敗訴となります。

だから、政府原案は問題なのです。

民主党が当初出していた修正案がいかに重要だったかが、これで理解できると思います。

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さて、政府・与党と民主党は、話し合いの結果、政府原案を一部修正することで合意しました。

政府・与党と民主党が合意した「合意修正案」がいかなる内容だったかを確認しておきます。

http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/syuuseian/1_277E.htm

武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律案に対する修正案(久間章生君外五名提出)

第三条の見出し中「武力攻撃事態」を「武力攻撃事態等」に改め、同条第一項中「武力攻撃事態」を「武力攻撃事態等」に改め、同条第四項中「武力攻撃事態への」を「武力攻撃事態等への」に、「武力攻撃事態に」を「当該武力攻撃事態等に」に…改める。


これが、「合意修正案」の基本的人権に関わる部分の修正案です。

わかりにくいので、「合意修正案」の修正後の条文を書いてみます。

政府与党と民主党の合意修正案

第三条 武力攻撃事態等への対処においては、国、地方公共団体及び指定公共機関が、国民の協力を得つつ、相互に連携協力し、万全の措置が講じられなければならない。トと4 武力攻撃事態等への対処においては、日本国憲法の保障する国民の自由と権利が尊重されなければならず、これに制限が加えられる場合は、その制限は武力攻撃事態に対処するため必要最小限のものであり、かつ、公正かつ適正な手続の下に行われなければならない。


いかがでしょうか、「政府原案」と比較して、基本的人権部分については、ほとんど「政府原案」と違いが無いということにお気づきいただけたでしょうか。

「合意修正案」と「政府原案」とは違いは、、「武力攻撃事態」が「武力攻撃事態等」になった程度です。

「等」がついた理由はは、民主党が「大震災も有事だから等にしろ」と言ったのが受け入れられて、大震災有事やテロ有事などのときに、軍隊が首相の命令一声だけで出動できるようになった、ということです。まぁ、阪神大震災の時のことを想定すれば、あらかじめ大震災有事を想定しておくことは国民の生命を守ることになるかな、とは思います。その点は評価できます。

しかし、肝心の基本的人権の「保障」については、「保障」という文字はどこにも存在せず、「政府原案」通り「尊重」のままで、修正されていません。

ここまでの主論点をまとめると、以下の通りです。

政府原案
「基本的人権に関する規定は尊重されなければならない」

民主党案
「基本的人権に関する規定は保障されなければならない」

与党・民主党合意文書案
「基本的人権に関する規定は尊重されなければならない」

日本国憲法第11条
「この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。」


いかがでしょうか。政府与党と民主党の合意修正案が、基本的人権の「保障」が「尊重」へと一時的に後退していることが、これでご理解頂けると思います。

とはいえ、有事法制はこれでおわったわけではありません。

武力攻撃事態法案では、民主党は「基本的人権の尊重」という文字を載せることに失敗しましたが、1年後に作られるであろう「国民保護法制」において、「基本的人権の尊重」という文字が盛り込まれる可能性があります。

仮に合意文書がきちんと守られ、国民保護法制が作られ、「民主党修正案」通りに修正されると仮定すれば、事実上、基本的人権の「保障」の部分に着いては与党は受け入れたことになり、国民の基本的人権は戦時でも保障されることになります。

しかし、「民主党修正案」通りに修正されなかったら、国民の基本的人権は戦時には保障されません。

では、確認のため、与党と民主党の合意文書から、基本的人権の部分を確認しておきましょう。

http://www.dpj.or.jp/seisaku/gaiko/BOX_GK0115.html

有事関連法案の修正に関する民主党と与党3党との合意文書

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1「緊急事態における基本法」について (3)武力攻撃事態対処法第3条第4項を別紙(2)のとおり修正するとともに、「民主党修正案が掲げる事項については、国民保護法制において措置すること」を合意する。

(1)及び(3)の合意文は「別紙」のとおりとする。

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2「武力攻撃事態対処法案」の修正について

(5)「施行期日」

「国民保護法製の整備は、1年以内を目標に実施すべき」旨を別紙附帯決議に盛り込む。


で、実際につくられた「附帯決議」はこうなっています。

http://www.dpj.or.jp/news/200305/20030514_03jitai.html

「安全保障会議設置法の一部を改正する法律案」、「武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律案」及び「自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律案」に対する付帯決議

平成十五年五月十四日

衆議院武力攻撃事態への対処に関する特別委員会

政府は、標記の三法の施行に当たって次の諸点に留意し、その運用に遺憾なきを期すべきである。

一、指定公共機関の指定に当たっては、報道・表現の自由を侵すようなことがあってはならないこと。

二、国民の保護のための法制の整備は、武力攻撃事態対処法の施行の日から一年以内を目標として実施すること。


与党と民主党との「合意文書」は、与党代表者と民主党代表との間で交わされた「覚書」によって約束されたものですから、よほどの事変が起き無い限り、守られることになります。

とはいえ、付帯審議には法的強制力はありませんので、気休めにすぎません。「報道・表現の自由」の部分も同様です。

http://www.dpj.or.jp/seisaku/gaiko/pdf/yuuji_oboegaki.pdf

覚書

自由民主党・公明党、保守新党の三党と民主党は左記の点について合意した。

一、武力攻撃事態対処法第三条第四項に関し民主党が修正するよう求めている事項については、「国民保護法制」で措置する。


「合意文書」には、たしかに「「民主党修正案が掲げる事項については、国民保護法制において措置すること」を合意する。」と書いており、基本的人権に関する部分は民主党の意見を国民保護法制に盛りこむことになっています。

ところが、ところが、です。

合意文書をよく読むと、「第3条第4項を別紙(2)のとおり修正するとともに」という前提条件がついています。

これがある種基本的人権のリミッターになっていて、曲者です。

では、1年後に作られる国民保護法制で、基本的人権を保障する前提として書き込まれる条件とはどのような内容でしょうか。

別紙を見て確認しましょう。

別紙(2)

 武力攻撃事態等への対処においては、日本国憲法の保障する国民の自由と権利が尊重されなければならず、これに制限が加えられる場合にあっても、その制限は当該武力攻撃事態等に対処するための必要最小限のものに限られ、かつ、公正かつ適正な手続の下に行われなければならない。この場合において、日本国憲法第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。


私は、この合意文書の別紙の文面を読んで、唖然としました。

「基本的人権の保障」という文字が、どこにも無かったからです。

民主党が当初「修正案」で求めていたはずの「基本的人権の保障」という言葉は、「最大限に尊重」に書き換えられることになっています。

ということは、結局、民主党は、基本的人権保障の分野で、与党に大きくに譲歩したことになる、と考えられます。

有事法制における基本的人権の取り扱いについて、総括します。

日本国憲法第11条
「この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。」

政府原案
「基本的人権に関する規定は尊重されなければならない」

民主党修正案
「基本的人権に関する規定は保障されなければならない」

与党・民主党合意文書による武力攻撃事態法案
「基本的人権に関する規定は尊重されなければならない」

与党・民主党合意文書による国民保護法制の内容
「基本的人権に関する規定は最大限に尊重されなければならない」


なんのことはない、憲法11条などが規定している基本的人権の「尊重」は、ついに有事法制で盛り込まれることは無く、「最大限に尊重」すればよいことになったことになります。

「最大限」という形容句はつきましたが、いろいろと調べましたが、「尊重」は「尊重」である以上、形容句がついたことによって、裁判で政府による基本的人権制限の自由裁量権が消えて無くなると言う事はあり得ません。

生存権や、言論表現、出版報道の自由など基本的人権は、「最大限に尊重」されますが「保障」はされなくなります。

「保障」の文字を削除する点が与党にとって重要な論点だったことは、政府与党が民主党案の「保障」の文言の削除を執拗に迫り、頑なに修正を拒んでいたことを伝える報道からも伺えます。

http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20030513AT1E1200U12052003.html

有事修正で13日に与野党幹事長会談

 自民党は12日夕、民主党に(1)緊急事態対処基本法の制定について「速やかに結論を得る」との覚書を交わす(2)国民保護法制の整備を有事法案の施行後、1年以内に前倒しする――など八項目の妥協案を提示。ただ「思想・良心の自由など基本的人権の保障」の法案明記は重ねて拒否した。


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以前、私は資料/朝生/有事法制と報道統制でも書きましたが、憲法が規定する基本的人権は、法律によって制限できない絶対不可侵の権利・自由が存在すると考えていますし、まさに政府や国会の立法によって絶対に侵すことができない基本的人権があるというまさにその点において、大日本帝国憲法と日本国憲法との決定的な違いがある、と考えています。

戦後、日本人自らの手によってつくられ50年間日本人に支持され改正されずにきた日本国憲法は、立法によっては制限できない「基本的人権」というものを盛り込んでいます。

占領統治に新聞検閲などがあったにもかかわらず、独立後に日本国憲法を日本人改正せず、「基本的人権」という憲法の基本理念を日本人自ら守りぬいたその理由は、日本人の心の中に「もう戦争はこりごりだ」「平和無くして繁栄無し」という嘘偽りのない気持ちが存在していたからに他なりません。

私は、第2次世界大戦は体験していませんが、イラク戦争を体験した者として、「もう戦争はこりごりだ」と思っていますし、立法によっては制限できない「基本的人権」というものを絶対に守りぬかなければならないと思います。

有事法制について小泉総理は、くり返し「備えあれば、憂い無し」を繰り返していました。

実際にできあがった法律は、「基本的人権を奪える備えによって、戦争をやろうと考えている人たちにとって憂いがなくなる」というものでした。

国民が本当に求めている供えとは、「戦争する備え」ではなく「戦争しないための備え」であることは、ちょっと考えれば理解できることです。

「戦争しないための備え」についての議論が、有事法制をめぐって最後まで国会で議論されることがなく、結論を急いだことは、本当に残念です。禍根を残す国会だったと思います。

総括

1、政府与党は、武力事態対処法「合意修正案」で、基本的人権の「尊重」を「最大限に尊重」へとほんのちょっぴり譲歩し、民主党は「保障」を「尊重」へと大幅に譲歩した。

2、1年後の国民保護法制制定の際に、基本的人権の「保障」を「最大限に尊重」に変更することにより、政府の基本的人権侵害を武力事態法によって責任追及することは原則的に困難になる。

3、与党と民主党が合意した武力事態対処法「合意修正案」は、「基本的人権の"保障"」の文字は削除されており、憲法の基本的理念を事実上放棄する違憲立法となる可能性が高い。

4、与党と民主党が1年後に立法することに合意した「国民保護法制」においても、「基本的人権の"保障"」の文字は削除されることが合意されており、憲法の基本的理念を事実上放棄する違憲立法となる可能性が高い。

以上。

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参考

日本国憲法 第12条

この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。


基本的人権を守るのは、憲法ではありません。

人権と言うものは、放置すれば必ず消えて無くなるものです。

私たち自身の努力によってのみ基本的人権は守ることができますし、基本的人権を守ることは憲法が定めた国民の義務です。

 

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(キタノ)
ki@tree.odn.ne.jp
http://zirr.infoseek.ne.jp/
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